協働ロボットは周囲に作業員がいる中で作動することが前提であり、人間の安全を保護するために様々なセンサーや制御システム、人工知能(AI)といった技術が活用されています。このページでは、協働ロボットの技術基盤を支える技術についてまとめました。
センサーとは何かしらの変化や差異などを検出するための装置の総称であり、協働ロボットの安全な利用や動作において様々なセンサー技術やセンサー機器が利用されています。
力覚センサーはトルクセンサーとも呼ばれ、様々な方向からかかる「力」をリアルタイムで検出するためのセンサーです。例えば物体の重さを検出するセンサーは、鉛直下向きにかかる重力による影響を調べる働きを持っており、あるいは生産ラインにおいてワークの搬送やピッキングに使われるロボットシステムなどでは、ワークを破壊しないよう適切な「力」で対象物をつかんだり運んだりするためのセンサーが搭載されています。
力覚センサーやトルクセンサーは危険を検知するためだけでなく、協働ロボットが人に対して危険な影響を与えないためにも正確に作動していなければなりません。
近接センサーや衝突検知センサーは、協働ロボットに対して作業員や周辺のものが近づいていることを察知するためのセンサーです。例えばロボットアームの可動範囲に作業員が近づいてきた場合、近接センサーによって危険を検知し、アームの動きが衝突前に停止されなければなりません。またロボットアームが人や周辺のものに衝突しそうになった際、衝突検知センサーが作動して緊急停止命令を発します。
ビジョンセンサーとは、デジタルカメラや赤外線カメラなどによって、様々な物体を観測して対象物との距離や形状などを検出するための装置であり、そのシステムの総称です。
例えば産業用のデジタルカメラでロボットの周辺を撮影して、画角に作業員が侵入した際に動作を停止させたり、暗闇の中で赤外線や紫外線を使って人の動きを検出し、安全な動作を維持したりするために機能します。
センサーで周辺状況や様々な危険を察知できても、実際にそれが緊急停止などの結果として反映されなければ事故防止はできません。そのため、協働ロボットの技術基盤として、必ずセンサーと連動して機能する制御技術や制御システムが搭載されています。
制御アルゴリズムとは、システムやロボットが任意の操作量や運動量を決定するために設定されている法則であり、協働ロボットが正常範囲でパワーを発揮するためのルールやプログラムは適正な制御アルゴリズムによってコントロールされています。
また、その中でも力制御アルゴリズムは、文字通り協働ロボットの「力(パワー)」を制御するための法則や条件であり、力覚センサーによって検出された情報にもとづいて、適切な力の出力を再現する上で欠かすことができません。
なお、実際の協働ロボットでは複数のアーム関節や機構が連動しており、それら全てが正常なバランスで稼働するようアルゴリズムが設定されています。
インピーダンスとは電気工学において電流の流れにくさなどを示す量ですが、ロボット工学や協働ロボットにおいてインピーダンス制御とは、例えばロボットアームの先端にかかる「外力」や「外圧」を算出して、それに対して安定的な動作をするための力制御の一種です。
例えばロボットアームで10kgの物体を垂直に持ち上げる場合、アームに10kgの重力が下向きにかかった時、それとバランスを取るため上向きに10kgのパワーを出力する必要があります。インピーダンス制御はこのような安定性を維持するために機能します。
「モーション」とは動作を意味しており、例えば協働ロボットと目的となる対象物の間に障害物があったとして、それらの障害物を回避しながら対象物へと近づいたり、ロボットアームを伸ばしたりするための動作(関節軌道)と考えることが可能です。
モーションプランニングとは、協働ロボットが行うべき動作や軌道を自動的に生成するシステムやプログラムであり、モーションプランニングが正常に働かなければ作業員の接近をセンサーが設置してもアームの衝突を回避することができません。
協働ロボットが実際にどのような動作やプランニングを行うのか、あらかじめエンジニアが適切な設定や登録を行っておく必要があります。そのため、協働ロボットの安全な運用や効果的な活用には相応の学習技術が重要です。
ティーチングは産業用ロボットシステムを運用する際に不可欠な作業工程であり、どのような条件や動作をロボットに行わせるのか、事前に条件などを入力してシステムに学習させることを意味します。
ティーチングは専門スキルを習得したエンジニアが担当し、ティーチング技術を学ぶためのセミナーなども実施されています。
パラメータを入力してティーチングを行わなくても、作業員がロボットアームなどを実際に動かして、その動きや順序をシステムが自動的に記憶・再現させるといった方法も有効です。
ただしデモンストレーションによる学習は事前に示された動作を正確に再現してしまうため、模倣の元となる動作や手順に不備があれば問題行動が繰り返されてしまう危険性もあります。
ティーチングやデモンストレーションによる学習を使わずとも、人工知能(AI)による機械学習でシステムを成長させていく技術も注目されています。
強化学習とは、操作者が一定の動作やタスクを繰り返すことで、その行動ルールが優先的に記憶されて再現性が高められていく機械学習の1種です。
人間が同じ英単語を繰り返しノートに書いて記憶するような行動と同じであり、特定のタスクを繰り返すことでAIにもそれが重要であると示すことができます。
強化学習は人が誘導してAIに反復学習をさせましたが、ディープラーニングはAIプログラムそのものが様々な情報の中から共通点や法則を見つけ出し、分析を繰り返して学習していく機械学習です。
ディープラーニングを実行するためには比較対象となる膨大なデータが必要ですが、データベースを構築できれば人が助けずともAIが自動的に学習を強化していきます。
また、生産ラインにおいて対象物などを認識・検出させることで、それ自体を新たなデータとして収集可能です。
AIはそれまでの学習データにもとづいて、次の動作や最適な結果を予測できるようになります。また、人間がその予測結果の正誤や品質を評価してやることで、AIの予測性能は一層に確度を高められ、人工知能としての精度を向上させることが可能です。なお、このようなAIと人間の対話をヒューマンインタラクションと呼びます。
協働ロボットをコントロールする方法として、キーボードやタッチパネルを使用するだけでなく、音声入力やジェスチャー操作といった選択肢もあるでしょう。
操作員が言葉でロボットへ指示を出し、システムがその音声を言語として認識して、命令されている内容を再現するために音声認識技術や自然言語処理システムなどが必要です。
また、正確に対象者の音声を認識して分析するためのマイクなどハード面の性能も重要です。
画像処理システムや対人センサーなどを活用して、作業員が特定の動作(ジェスチャー)をした際にそれを検知し、あらかじめ対応する動作を設定しておけば、声や入力作業を経ずとも身振り手振りで命令として認識させることができます。