人材不足が深刻化する日本社会において、協働ロボットは事業の省コスト化や省人化を叶え、企業の生産性向上や利益増を後押しする有効な施策ですが、協働ロボットはあくまでも人とロボットが一緒に活躍することでメリットを追求できるものであり、協働ロボットの活用には適切な人材育成や人材マネジメントが欠かせない点も重要な課題です。
協働ロボットの導入や導入効果の追求について考える上で、そもそも実際の製造現場で協働ロボットの価値を最大化するための専門人材が用意されていることは前提となります。
言い換えれば、協働ロボットの運用や管理について適切な知識やスキルを有した専門人材が存在しない場合、協働ロボットは本来の性能を発揮できず、導入コストやランニングコストに対して十分な恩恵を獲得できないかも知れません。
加えて、協働ロボットの条件設定やパラメータ入力を適切に行えない場合、安全装置や事故防止機能が正しく作動せず、逆に周辺で働く作業員との接触といった労働災害が発生するリスクも増えかねない点も大きな課題です。
もちろん、協働ロボットの導入時や初期設定時には、ロボットのメーカーや導入をサポートするロボットSIerといった専門家の助けを借りることができます。しかしそれらの専門人材は自社に常駐してくれないため、やはり長期的に見れば自社でも最低限のスキルを備えた人材や、ニーズに幅広く対応できる専門人材を育成する取り組みが不可欠になるでしょう。
専門人材の育成を考える上で最大の課題は、そもそも人材育成には十分なスキルとノウハウを備えた専門人材が必要であるという事実です。
つまり、自社の作業環境や製造現場において適した協働ロボットを導入し、その操作や運用、管理について十分な専門人材を育成しようと思えば、まず条件に適合した専門人材を用意した上で教育カリキュラムを考えなければなりません。
ロボットメーカーやSIerなどのサポートも受けながら、自社で人材育成に必要な社内プログラムを用意したり教育カリキュラムを開発したりできれば、積極的にその品質向上に取り組むことが肝要です。
また、そのような施策によって自社内に専門人材を育成できれば、やがてその人材が現場で協働ロボットを運用するだけでなく、実地教育によって後進の育成にも貢献できます。
なお、厚生労働省が制定する労働安全衛生規則では、出力80W以上の協働ロボットの運用に関わる人材は公的に認められた「特別教育(産業用ロボット特別教育)」を受けなければならないと定めており、協働ロボットのティーチングや検査といった業務に関与する従業員は全員、特別教育を受講しなければなりません。
特別教育には修了試験がないため受講生は全員が資格を取得できる上、履歴書にスキルとして明記できることもポイントです。
前述したように、協働ロボットに関する人材育成には、すでに十分なスキルや知識を備えている専門人材に教育者として協力してもらうことが不可欠です。そのため自社でまだ十分な人材が育成されていない場合は、社外の専門家やプロフェッショナルに人材育成や人材教育をアウトソーシングすることも検討できます。
人材育成業務の委託先として考えられる対象には、まず導入する協働ロボットのメーカーや導入支援を行ってくれたロボットSIerが候補に挙がるでしょう。また、人材育成を専門に扱う会社へ相談し、協働ロボットに関する専門人材の紹介や教育カリキュラムの作成をまとめてアウトソーシングすることもできます。
なお、信頼できるアウトソーシング先や専門家を見つけられない場合、産業用ロボット特別教育を実施している全国各地の労働基準協会連合会や(一社)HCI-RT協会といった団体へ相談することも有効です。
日本政府や各自治体は少子高齢化と働き方の多様化が進む現代社会において、優れた専門人材の育成を積極的に支援しており、例えば公的に用意されている技術者育成支援制度を活用することも効果的です。
これらの制度を使うことで補助金や助成金を受けられれば、結果的に人材育成やカリキュラムの費用対効果を向上させて、よりスムーズに専門人材の成長を後押ししやすくなるでしょう。
せっかく協働ロボットを導入しても、その性能を十分に発揮できる専門人材がいなければ運用メリットや費用対効果を最大化することはできません。加えて、ロボットの種類によっては特別教育の受講といった事前準備も必要です。
しかし視点を変えれば、自社で積極的に専門人材や高度人材を育成し、人的リソースを拡充させることで、協働ロボットの利用価値を最大限に発揮させ、後進の育成に関しても様々な恩恵を獲得することが可能となります。
人材育成は協働ロボットの導入と同様に大切な事業投資であり、未来に向けた事業戦略の基盤構築だと認識することが第一歩です。